<Skiny Dip>
背中合わせになり、銃を構える。
かすかにチャプチャプと聞こえる水の音。
ここは東京都内の浄水場、貯水池の中に浮いた2階建の建物の屋上。
夜でありながら、目映いばかりのサーチライトに照らされて、涼子と泉田に対峙するのは、
警官の姿をしていながら、既に正気を失った目をした2人。
昨夜、東京郊外で警官が、警官を射殺した。
何かに憑依された、という涼子の捜査の元、化け物と化した警官2人をなんとかこの貯水池までおびき寄せ、現在に至る。
「なんであんなやっかいなのに取り憑かれるかなあ。」
昨夜のうちに弱点も突き止め、涼子と泉田の拳銃には、
体内組織を傷つけず特殊なエネルギーを拡散する銀の玉が詰められている。
警戒しているのかなかなか近づいてこない化け物たちに、泉田は一度肩を上げリラックスして、気合いを入れなおす。
その気合いをくじくような、柔らかな声が耳元で響いた。
「ね、泉田クン、夜泳いだことある?」
「は?何を言ってるんですか!?こんな時に!」
緊張感のかけらもない笑いを含んだ涼子の声。
「いいから。あるの?ないの?」
「そうですね…高校の時に夜プールに忍び込んで泳いだことがあります。」
合宿中だったか。悪友たちと服を脱ぎ捨てて飛び込んだ。
「夜の水泳って楽しいよね。もちろん水着なんか着ないわよね?」
「…若かったですね。」
涼子は肩をすくめつぶやいた。
「ま、一発入れば大丈夫だろうけど念のため、ヨロシク。」
「はあ?」
次の瞬間、身をかがめると、涼子は憑依された化け物警官一人に突進、見事に腕を撃ち抜いた。
続いて飛びかかってきたもう一人の肩に、銃弾を撃ち込む。
「ウウウウウウ!!!」
ガアーッという雄たけびをあげて、化け物たちが飛びかかってくる。
「効かないじゃないですか!!」
「おかしいなあ、じゃ、頼む!」
涼子は化け物の攻撃をかわしながら、泉田を思い切り屋上から突き落とした。
「う、うわああああ〜っ!」
泉田はそのまま背中から貯水池に落ちた。深さは5Mと入口に書いてあったと、水面で背中を打って思い出す。
体勢を立て直して水面に浮上すると同時に、上から人が降ってきた。
「頼むわよ〜!!」
憑依された警官たちが次々落ちてくる。
2人とも暴れながら落ちてくるのだが、沈んだまま浮いてこない。
「ライト!こっち!!」
叫びながら泉田は再び潜った。
昼間のように水が煌く。澄んだ水の中で、二人が撃たれたところを押さえて緩慢な動きでもがいている。
急におとなしくなってげぼげぼと水を飲みかけている一人を、まず水面に引きずり上げる。
そして再び潜り、もう一人を引きずり上げたところで。
ばっしゃ〜ん!!
泉田の横に、まっすぐきれいな水しぶきが上がった。
「警視!」
涼子がぷはっと水面に顔を出す。
「きっもちいい〜!」
「なんであなたまで…。それになんであの2人…。」
「あの憑依霊、水に弱いの。あたしはついで。」
はああ。
泉田は、ぐったりとした化け物警官を救助隊に引き渡すと、
立ち泳ぎで肩にもたれかかってくる涼子の腰を支えた。
「服、脱いじゃう?」
「だめです!!」
にこにこ笑顔の涼子を前に、まだ肌寒い初夏の風の中、泉田は夜空を見上げた。
いいお月さまだ。
「泉田クンもおいでよ〜。」
「ムリです。」
翌日、よく晴れた夏日。ご褒美休日の泉田は、涼子の部屋で、
自動通信で送られてくるマンション屋上涼子専用プールの映像から、慎み深く目をそらし、
マリの入れてくれたコーヒーを飲むことに専念していた。
多分あそこのモニター横のスイッチを切れば、通信は切れるのだと思うが、
切るのもなんだか…いや、しかし。
「なんで無理なのよ〜!?」
「私は日本人です。外で裸をさらすのは、温泉の露天風呂が限界ですっ。」
「おもしろくない〜!来ないなら、見せてあげないっ!」
その声に思わずモニターを見上げると、見事なデコルテラインと「あっかんべー」と…構えられた拳銃。
ぱしゅっ。
「…ペイント弾?」
モニター画面は一瞬にして真っ青に染まった。
「…やれやれ。」
今度夜にゆっくり、一人で泳がせてもらおう。
もし見られても、あのグレゴリー・キャノン.Jr.よりは、まあ、ましだろう。
ぱしゃぱしゃと、女王さまのスキニー・ディッピングの音が聞こえる。
泉田は、窓を開けて熱を冷ますように頬に風を受けた。
(END)
*黒蜘蛛島「スキニー・ディッピング」ネタ提案、ありがとうございました。
夜の水泳は楽しいですよね。私はもちろん水着着ますけど(汗)。
ところで本文文字、大きくしてみました。読みにくいというお声も頂き、私の目の衛生上も
この方がいいようなのですが、 レイアウトとか字体って、イメージが大きく変わるものなので…。
違和感を感じる、2人のイメージと違う等のお声がありましたら、拍手に書き込み頂ければ幸いです。