<Crazy for you>
あと3人だ。
しっかりとこちらに照準を合わせている殺気が、ぴりぴりと闇の中を伝わってくる。
ここに入る直前、同僚に連絡を取ってくるから動くなと、彼は言った。
この状況でバカなことをと思ったけれど、それを彼に言ってもまだわからない。
犯罪者との心理戦にかけては、彼はまだまだ未熟。
女心で訓練してやろうって思っているけれど、それは問題外なほどの低レベル。
やれやれ。
今日の相手はもう何人も殺し、追い詰められていることが十分にわかっている。
手負いの獣と同じ。
そんな奴らは警官たちが駆けつけてきたら、冷静な判断力なんて働かない。
手あたり次第に撃ってくるだろう。
だから、その前に。
耳を澄ませて、全神経を集中させて。そうすると相手の鼓動の音まで聞こえてくる。
その中でアタシの耳は下の扉を開け、階段を駆け上がってくる小さな小さな足音をとらえた。
間違えようのない足音。
それはたった一人のものだったけれど、もう迷うことはない。
「こそこそ隠れないで出てきたらどうなのさ!臆病者!」
アタシは足元のドラム缶を思い切り蹴り飛ばして立ち上がった。
バカなことをしている。
銃を構えながら、瞬間笑えた。
犯人はそこ、目の前にいると言うのに。
普通撃たれるだろう。でもあたしは撃たれない。
なぜなら。
「警視!」
アタシはとっさに身をj低くした。
轟音一発。
目の前の敵が肩を押さえてうずくまった。
バンッ。
アタシの背後でもう一人の敵が倒れる。
それと同時に感じる、アタシを守る大きな存在。
さあ、フィナーレだ。
アタシは最後の一人に向かって、ためらいなくトリガーを引いた。
遠くからパトカーの音が聞こえてくる。
彼は犯人たちに戦意がないことを確認すると、手錠で確保して、こちらに歩み寄ってきた。
そして彼はぐいっとアタシの腕を引いた。
そこには犯人の弾がかすった焼け跡が薄く残っている。
「お怪我は!?」
「ないわ。」
「…なぜ待って頂けなかったのですか?」
「待っていたら日が暮れるから。」
大きくため息をつく彼の額を、背伸びして突きながら笑ってみせる。
「ウ・ソ。泉田クンが来てくれるって足音でわかったから。」
そのまま首に手をまわすと、彼は大きな胸にアタシを受け止めて、絞り出すような声でつぶやいた。
「正気の沙汰じゃない。無茶をしない下さい.。」
・・・そんなに抱きしめたら痛いわよ。
まるでぬくもりを確かめるように、
ためらいがちに髪に手を差し入れる仕草に、たまらなくどきどきする。
警察組織の中で背中を預けられるのは一人だけ。
――この男が、何があってもアタシを守る。
この絶対的な自信を、狂気と呼ぶなら呼べばいい。
<END>
*お涼サマには常人にはわからない勝敗の判断基準があるのだと思いますが、
泉田クンは毎度毎度いい仕事していますよね(笑)。少し体も戻ってきたので、またぼちぼち更新していきます。
いつも来て頂いているのに、遅くて申し訳ありません。よろしければまたお付き合いください。