*こちらは鷹津椎奈さまからの頂き物です。大切に飾らせて頂きます。素敵な、素敵なお涼サマと泉田クンを本当にありがとうございました♪


『Crest of Lily』


いつものように涼子に呼ばれ、今日は何だろう?と考えながら泉田は参事官室のドアをノックする。
ノックをしたからといって、入室許可がでてから入らないとダーツの的にされてしまう。

「失礼致します。」

涼子からの入室許可を確認してからドアを開ける。
中には…机を椅子代わりに座っている涼子がいた。

「あら、今日も狙ってたのに。つまんないわね。」

手にはダーツの矢を持っている。

「警視の腕前でしたら、近い将来私は二階級特進です。」
「何言ってんのよ、アタシが本気で泉田クンの眉間を狙うわけないでしょ?」

脚を組替えて、楽しそうに声をあげた。

「…それで、本日は何の御用でしょうか?」

泉田が溜息まじりでお伺いを立てると、涼子は「もう本題なの?」と言わんばかりの表情になる。
少し唇を尖らして拗ねてるようにも見えた。

「今日はバレンタインデーでしょ?―――感謝してね。泉田クンにチョコを用意してきたの。」

そう言うと、泉田の目の前にセンスを感じるラッピングの施された箱を突きつける。

「味わって食べてよね。」

それは、別名『絶対命令』で『今すぐ食べろ』という意味だと理解する。

「解りました。ありがとうございます。心して頂かせてもらいます。」

そう言って参事官室を後にした。



自分のデスクに戻ってきて、リボンを包装紙をとり箱を開ける。
―――間違いなく高そうなトリュフが数粒。
が、その中に1つどう見ても違うと思われるチョコが1つ入っていた。

(これは…多分…だよな。)

間違いなく手の違う不恰好のチョコを取り、恐る恐る口にほうばる。味は泉田の想像した以上の美味しさだった。

(気にしすぎか?)

一瞬涼子を疑ったことに罪悪感を抱くが…すぐに撤回することになる。

ガチッ

あからさまにチョコではないものが歯に当たった。
顔をしかめてそれを出して確認すると…銀色のゴシック調の刻印の入った指輪だった。

(何の模様だろう?)

少々気になり、あたりを見回す。

「あ、貝塚君。ちょっといいかな?これって何の模様か解る?」

疑問が解けると泉田は急いで残りのチョコを机に片付け、
指輪を洗いに席を立つ―――そして涼子が待つ参事官室へ向かった。



「警視、よろしいでしょうか?」

ドアの向こうからの機嫌のよい「Come in!」の声を確認してからドアを開ける。
中の風景は先ほど出て行ったときと何も変わっていなかった。

「泉田クン、遅いわよ。いったいチョコ1つ食べるのに何分かかってるのよ。」

やはり涼子のイタズラだったとわかり、肩を落とす。

「…警視。私は指輪が入っているチョコがあるなんて初めて知りました。…お返しします。」

そう言うと涼子のデスクに銀色に光る輪を置く。するとその行動に涼子はムッとした表情になる。

「ちょっと待ちなさい。女に指輪を渡すときの行動はそうじゃないわ。」

デスクから下りてきて、指輪を摘み上げると泉田の前に立つ。

「泉田クン、手。」

迫力に負け言われるままに手を出すと、指輪は泉田の唇に押し付けられてから手の中に戻って来る。

「指輪は、嵌めてあげるものよ。―――はい。」

涼子の左手が差し出される。
一瞬涼子と指輪を見てから言われるがままに薬指に指輪をつける。

「ありがとう。」

涼子の険しかった表情が、花が綻んだような笑顔に変わった。



「あの…警視。その指輪に刻まれている模様って…百合ですよね?」

意外な言葉が泉田から出たことに涼子が驚く。

「あら?よく知ってたわね。そうよ、これは百合の紋章よ。それが何か?」
「いえ。気になったので貝塚君に訊いたのですが…非常に警視を表してる紋章だと思ったので。」
「どういうこと?」

それっていい意味で言ってないわね?と涼子の瞳が泉田に訴える。

「あ、あの…『権力』とか『主権』とかの意味が…非常に警視にピッタリだとと思って…」

詰め寄ってくる涼子に地雷を踏んでしまったと気づき、あたふたとどうにもならない状態になる。それを見て、

「ふーん。まあ…いいわ。可哀相だから今日はこのくらいにしてあげる。」

掴んでいたネクタイをパッと離して自分のデスクへと踵を返す。
ホッと胸を撫で下ろすと一礼して泉田は参事官室を出て行こうとドアに手をかけた。

「―――ねえ泉田クン。…そのチョコは何個目で食べたの?」

涼子が、伺うように訊く。その声に泉田はドアに向かってくすっと笑う。

「もちろん、1つ目です。」
「…そう。」

涼子の声のトーンで、トリュフを見たときの疑問は確信になる。

「警視の…手作り、ありがとうございます。今年のバレンタインで、1番に頂かせて貰いました。とても美味しかったです。」
「…そう。」

先ほどより明るいトーンの返事に自然と笑顔になる。
振り向いて涼子の表情を見たい気もしたが、泉田はそのまま出て行った。


部屋を出た泉田はドア越しに涼子へ向けて独り言を零す。

「紋章のもう1つの意味である『純粋』『純潔』も…貴女にお似合いです。」



部屋を出て行ったことを確認した涼子は、誰も見ていないのがもったいないくらいの笑顔で、
嬉しそうに泉田の歯型のついた紋章にそっと唇を寄せた―――


(了)



*鷹津椎奈さまのサイトはこちら。サイコミステリーシリーズ」と「Q.E.D.-証明終了-」の2次創作小説です→